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会社員だった頃は、今年の年収がだいたい読めました。だから6月に届く住民税の通知書を見て、「今年もこのくらい寄付できるかな」で済んでいたんです。
でも、今年は違いました。私は今年、会社を辞めて独立した1年目。収入は正直、まだ安定していません。それなのに手元の通知書には、会社員時代の収入をもとにした立派な金額が印字されている。「お、今年もけっこう寄付できるじゃないか」——そう思いかけて、ふと手が止まりました。
あれ、この通知書って「去年の収入」の話じゃないか?
調べてみたら、その直感は当たっていました。そして危うく、返礼品目当ての寄付が「ただの寄付」になるところでした。今日は、退職・転職・育休など「収入が大きく変わる年」のふるさと納税の落とし穴と、私が今年「見送り」を決めるまでの話です。
ふるさと納税の上限は「今年の収入」で決まります
まず仕組みをざっくりおさらいします。ふるさと納税は、寄付した金額のうち2,000円を除いた分が、税金から差し引かれる制度です。実質2,000円の負担で返礼品がもらえる——これがお得と言われる理由ですね。
ただし「いくらまで寄付してもお得か」には上限があります。目安は、住民税の所得割(住民税の中心部分)の約2割。年収が高いほど上限も上がり、上限を超えて寄付した分は、差し引かれずにそのまま自己負担、つまり純粋な寄付になります。
ここで大事なのが、時間のズレです。

6月に届く住民税の通知書は、「去年の収入」をもとに計算されたものです。一方、今年これから行うふるさと納税の上限を決めるのは、「今年の収入」。つまり、収入が大きく変わる年には、手元の通知書がまったく当てにならないのです。
このややこしさの正体は、所得税と住民税の「精算のタイミング」の違いにあります。所得税は毎月の天引きと年末調整で、その年のうちに精算が終わる即時精算型。一方の住民税は、今年の収入をもとに来年の6月ごろ金額が決まってから払う後払い型です。そしてふるさと納税の控除(ワンストップ特例を使う場合)は、主にこの「来年の住民税」から引かれます。今年の寄付が本当にお得だったかの答え合わせは、来年6月まで分からない——この時間差が、収入が変わる年の読みにくさを生んでいるのです。
収入が毎年安定している人なら、このズレは問題になりません。去年と今年がほぼ同じなら、通知書は良い目安になります。問題は、そうでない年を迎えた人です。
「ただの寄付」になりやすいのは、こんな年
収入が大きく変わって、上限が読みにくくなる代表的なケースが4つあります。

退職した年
年の途中で退職して無職の期間があると、今年の収入は去年より大きく下がります。通知書の金額を信じて例年通り寄付すると、上限を大きく超えてしまう典型的なパターンです。
転職1年目
転職で年収が下がった、ボーナスの支給がまだない、入社月の関係で今年の収入が少ない——こういう年も上限は下がります。
独立・フリーランス1年目
私はこれです。収入がいくらになるか、本人にも年末まで分かりません。しかも会社員と違って経費や控除の計算も絡むので、ネットの簡易シミュレーター(多くが会社員向けの設計です)では正確に出ません。
育休・産休の年
収入が大きく下がる上に、もうひとつ重大な注意点があります。「自分の名義で寄付してしまう」ことです。
ここは強調させてください。ふるさと納税の控除を受けられるのは、寄付した本人だけです。育休中で収入が少ない人が自分の名義で寄付をして、あとから「控除は夫(妻)のほうに付け替えたい」と思っても、それはできません。寄付の申込者名とクレジットカードの名義が、控除を受けたい人と一致している必要があります。収入が下がる年は、最初から収入のある側の名義で寄付する——これが育休家庭の鉄則です。
退職金をもらった年こそ要注意——「上限が増える」は誤解です
退職した年について、もうひとつ大事な話をさせてください。「退職金がまとまって入ったから、ふるさと納税の枠も増えるはず」——そう考える方はとても多いのですが、実はこれ、誤解なんです。

退職金(一時金で受け取る場合)は「分離課税」という特別な仕組みで、受け取るときに税金が天引きされて、その場で精算が終わります。買い物にたとえると、レジで支払いが完了したレシートのようなもので、あとから割引券(ふるさと納税の控除)を差し込む余地がないのです。
ふるさと納税の上限を決めるのは、あくまで給与や事業収入などの「毎年の所得」にかかる住民税。退職金がいくら大きくても、この計算には基本的に入ってきません。つまり——
- 退職金をもらっても、ふるさと納税の上限は「ほぼ増えない」
- むしろ退職した年は給与収入が減るので、上限は「下がる」ことが多い
「退職金があるから今年は多めに寄付しても大丈夫」と考えて例年以上に寄付してしまうと、超えた分はまるごと自腹。退職の年は、増えるどころか慎重にいくべき年なのです。
なお、退職金を一時金ではなく年金形式(分割)で受け取る場合は、雑所得として毎年の所得に合算されるため、上限に影響することがあります。受け取り方を選べる方は、このあたりも含めて税理士さんや市役所に確認するのが確実です。
高額な通知書を前に、私が「見送り」を決めるまで

私の場合の話をします。
6月に届いた通知書の金額は、会社員時代の収入がもとになっているので、それなりの金額でした。例年の感覚なら「今年も1万円台の寄付はいけるな」というところです。
でも、今年の私の上限を決めるのは、独立1年目のまだ見ぬ収入のほう。そこで、今年の利益(売上から経費を引いた額)をかなり控えめに見積もって、ざっくり計算してみました。住民税の所得割はおそらく数万円。その2割となると……上限は数千円です。
数千円の寄付では、自己負担の2,000円が占める割合が大きすぎます。1万円寄付して8,000円分お得になるのと、5,000円寄付して3,000円分では、話がだいぶ違う。しかも独立1年目、収入の見込みが外れて下振れすれば、その数千円すら上限を超えるかもしれません。
返礼品のカタログでうなぎを眺めながら、しばらく考えて、決めました。今年は、見送り。
正直に言えば、少し寂しい決断です。でも、上限を超えた寄付は「実質2,000円」ではなく「全額自腹」。それは節約でも家計の工夫でもなく、ただ財布が軽くなるだけです。制度を正しく知ったからこそ、「やらない」を選べたのだと思うことにしました。
それでも寄付したい年の、損しない3つのルール

「収入は下がるけど、ゼロではない。少しくらいは寄付したい」——そういう年もあると思います。私が調べてたどり着いた、損しないためのルールは3つです。
1. 上限は少なめに見積もる
見込みの半分〜7割くらいの控えめな金額にとどめる。上限を超えた分は全額自腹になるので、「攻めない」が鉄則です。
2. 寄付の本番は年末にする
ふるさと納税は12月31日まで、その年の分として寄付できます。今年の収入がほぼ固まる11〜12月まで待てば、上限の読みは格段に正確になります。収入が読めない年ほど、駆け込みが正解です。
3. シミュレーターは「詳細版」を使う
ふるさと納税サイトにある簡易シミュレーターの多くは、収入が安定した会社員向けの設計です。退職・転職・独立・育休の年は、社会保険料や各種控除まで入力できる「詳細版」シミュレーターを使うか、市役所の税務課に確認するのが確実です。
収入に大きな変動がない人には、やっぱりお得な制度です
ここまで散々「危ない」と書いてきましたが、誤解しないでいただきたいのは、ふるさと納税そのものは良い制度だということです。収入に大きな変動がない会社員の方なら、通知書や源泉徴収票をもとに上限を見積もれるので、今年も安心して楽しめます。
これから始める方には、自治体数が最も多い「ふるさとチョイス」が品揃えの面でおすすめです。
初めてで不安な方は、選び方と失敗しないポイントをまとめたこちらの記事もどうぞ。

お米のコスパで選びたい方はこちら。

まとめ——「やらない」も立派な家計の選択

最後に、収入が変わる年のチェックリストを置いておきます。
- 今年の収入は、去年より大きく下がりそうですか?
- 下がった後の収入が、まだ読めない状態ですか?
- 寄付を急ぐ理由が、特にありますか?
上の2つが「はい」なら、寄付は年末まで待つか、思い切って見送るのが安全です。ふるさと納税は逃げません。来年もその先も、ずっとあります。
私はといえば、今年は見送りましたが、ひとつ決めたことがあります。来年、仕事を軌道に乗せて収入を戻して、ふるさと納税でうなぎを頼むこと。カタログで見た、あの炭火の照りを忘れないうちに。目標がひとつ増えたと思えば、見送りも悪くない選択でした。
