新卒40万円時代に思う——一番厳しいのは、60代の嘱託社員ではないか

東洋経済オンラインで気になる記事を読んだ。「初任給40万円時代に給与上がらない40代の本音」——タイトルだけでざわっとする人も多いだろう。株式会社400Fの調査では52.3%が年収に満足していないとあり、新卒の初任給引き上げに対して半数以上が既存社員との逆転待遇を懸念しているという。記事を読み終えて、私はしばらく別のことを考えていた。

40代の不満はよくわかる。ただ、私が気になったのは少し違うところだった。新卒、40代、そして定年後——この三者を並べたとき、実は今の時代に一番厳しい立場に置かれているのは、60代の嘱託社員ではないか、と。

目次

結論:新卒採用への投資も大切だが、長年支えてきた社員の出口を軽く扱う企業は、足元を掬われる。

新卒の初任給が上がるのは、企業が未来の戦力に投資しているからだ。その論理はわかる。しかし、入口ばかりを豪華にして、出口を蔑ろにしていないか。この記事は改めてそんなことを考えさせてくれた。

要点3つ

要点① 新卒初任給が上がるのは「採用競争」の結果であって、賃上げとは少し違う

新卒の初任給が30万・40万円台に引き上げられているのは、企業が「全体の賃金を上げたい」からではない。採用市場で優秀な人材を確保するための競争の結果だ。今年の春闘で大企業を中心に賃金が上がったというニュースも流れたが、その恩恵は全体に広がっているわけではない。

新卒採用への投資は「より優秀な人材を獲る先行投資」であり、それ自体は間違っていない。ただ、その投資が既存の中堅社員の処遇と明らかな逆転現象を生んでいるとしたら、組織として見落としているものがある。

要点② 向上心のある中堅から、先に辞めていく

仮に「どうせ辞められない」と会社が高をくくっているなら、それは危うい読み違いだ。年功序列に安住している人はそのままかもしれないが、向上心のある40代ほど選択肢を探す。転職市場が活性化している今、「もっと評価してくれる会社へ」と動き始めるのは、一番戦力になる人材だ。

入口に投資して、最も育った人材を手放す——企業がそんな皮肉な結果を招かないためには、中堅社員への処遇見直しが不可欠だ。そうでなければ、新卒採用への投資先を間違えた、ということになりかねない。

要点③ 本当に心配なのは、定年後の嘱託社員だ

ただ、私が一番気になるのは40代ではなく、定年間近の人や、すでに定年後に嘱託として働いている方々のことだ。長年会社を支え、豊富な経験と深い知識を持っている。後輩の育成にも貢献してきた。なのに、定年という節目を境に給与は大幅に下がり、「嘱託」という立場に変わる。経験の重さと給料が、まったく釣り合っていない。まるで「お荷物」とでも言いたそうな扱いに見えることすらある。

これはすべての社員がいずれ通る道のはずなのに、自分事として考えている人が意外と少ない気がする。20代の新人、40代の中堅、そして60代からの嘱託——この三世代を並べたとき、実は最も厳しい時代を生きているのが60代以降かもしれない。

背景ちょい足し——「定年後も何十年」が当たり前になる時代に

今の時代、60歳で定年を迎えてもそこで終わりではない。65歳・70歳まで再雇用が延長され、さらにその先も「生涯現役」を求められる流れになってきた。定年後も20年・30年単位で働くことが当たり前になりそうな社会で、その間の処遇があまりにも軽すぎやしないか。

経験は一番豊富なのに、給与は最も低い水準に戻されてしまう。その矛盾を、私たちはもう少し声に出してもいいと思っている。新卒・中堅・嘱託と並べたとき、入口だけが明るくて出口が暗い組織は、長い目で見て持続しない。

ひとこと——入口が明るくなるほど、出口の暗さが気になる

新卒の初任給が上がるニュースを聞くたびに、少し複雑な気持ちになる。それは嫉妬ではなく、「入口が明るくなるほど、出口の暗さが気になる」という感覚だ。

企業が未来に投資するのは当然だ。ただ、現在を支えている人、これまでを支えてきた人への敬意も、同じくらい大切なはずだ。以前にもこのブログで取り上げたテーマだが、新卒の給料が話題になるたびに、やっぱり同じことを思う。

一次情報・出典

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よくある質問

Q. 2026年の新卒初任給はなぜ急上昇しているのですか?

A. 大企業を中心に春闘での賃上げ圧力が高まっていることが主因です。少子化による人材獲得競争の激化と、物価上昇への対応として、特に大企業・外資系企業が初任給を引き上げる動きが加速しています。2026年春は複数の企業が初任給を月30万〜40万円超に設定しました。

Q. 初任給が上がると、中堅・ベテラン社員の給与はどうなるのですか?

A. 「逆転現象」が起きるケースが問題になっています。新卒が40万円でも、10年選手の中堅社員が35万円のままという状況が生まれており、既存社員のモチベーション低下や転職増加につながっています。多くの企業では社員全体の給与ベースアップも追加で実施していますが、新卒との差が縮まりにくい構造問題は残ります。

Q. 定年後に嘱託社員として再雇用された60代への影響は?

A. 最も割を食っているのが嘱託(再雇用)社員です。新卒に近い仕事をしながら、給与は現役時代の半額程度というケースも少なくありません。初任給40万円の時代に嘱託が20万円以下では、職場の一体感が失われる危険性があります。

Q. この賃上げの波は中小企業まで届いていますか?

A. 届いていないのが現実です。大企業と中小企業の初任給格差はむしろ広がっています。中小企業は人件費を大幅に引き上げる体力がなく、優秀な人材が大企業に流れる「二極化」が進んでいます。政府は中小の賃上げ支援策を打ち出していますが、効果は限定的です。

Q. 若者は大企業に入れば生活は安定するのですか?

A. 初任給は高くなっても、それが将来の昇給や雇用安定を保証するわけではありません。成果主義の強化で「入った後」の差が広がる傾向もあります。また住宅費や物価上昇を考えると、40万円でも東京での生活は決して楽ではありません。

この記事を書いた人

時事・経済・社会問題を「身近な視点」から読み解くライター。日常のちょっとした引っかかりを起点に、政治・経済・テクノロジーの動きを平易な言葉で伝えることをテーマにしている。よりみち世相録では、3分で読めるニュース解説を毎週更新中。

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