ニュースを開くたびに「また中東のニュースか」と思う人もいるかもしれない。
景気ウォッチャー指数——街角の声をまとめた景気の体温計——がここ2ヶ月連続で50を大きく下回っている(3月42.2、4月40.8)。内閣府の基調判断には「中東情勢によるマインド面の下押し」という言葉が並ぶ。
でも、日本はこれに似た危機を過去に2度経験している。そしてその2度とも、その後の日本は変わった。今回は「過去の2つの危機」と「今起きていること」を並べて、これからどうなるのかを考えてみたい。
1973年——トイレットペーパーが消えた年
第1次オイルショックは1973年10月に始まった。第4次中東戦争を機に、産油国が「石油を武器にする」という選択をした。原油の価格はわずか3ヶ月で約4倍になった。
日本への影響は深刻だった。消費者物価は1974年に前年比23.2%上昇。スーパーの棚からトイレットペーパーが消え、砂糖や洗剤も買い占められた。経済成長率は戦後初めてマイナスに転落した。
ただ、この危機を経て日本は変わった。省エネ法が制定され、企業は徹底的に省エネ技術を磨いた。石油への依存度は1973年の75.5%から2010年には40.3%まで下がった。「危機が日本を省エネ先進国にした」と言われる所以がここにある。
回復までにかかった時間——おおむね5〜6年。
1990年——「ミニ」で終わった湾岸戦争
次の危機は1990年、イラクがクウェートに侵攻した湾岸戦争だ。原油価格は1バレル17ドルから37ドルへ約2倍に上昇した。
しかし今度の影響は、1973年とは比べものにならないほど小さかった。経済学者たちはこれを「ミニオイルショック」と呼んだ。なぜ軽微で済んだのか——日本はすでに1973年の教訓から石油備蓄と省エネを積み上げていた。そして何より、戦争の終結が早かった。1991年2月に多国籍軍がイラクを撤退させ、約半年で危機は収まった。
回復までにかかった時間——半年ほど。
2026年——今回は「どちら」に近いのか
2026年2月、米国・イスラエルがイランを攻撃した。原油価格は1バレル67ドルから一時120ドル近くまで急騰(約80%上昇)。4月に停戦が合意されたが、その後イランは再びホルムズ海峡封鎖を表明した。現在も情勢は不安定なままだ。
ここで、過去2回と「今回が何が違うのか」を地図で確認してほしい。

地図を見ると一目瞭然だ。湾岸戦争の相手はイラクで、ホルムズ海峡とは無関係だった。しかしイランはホルムズ海峡の沿岸国であり、封鎖するかしないかはイランの意思次第だ。日本の原油輸入の94%がここを通る。
| 1973年 | 1990〜91年 | 2026年(現在) | |
|---|---|---|---|
| 原油価格の上昇 | 約4倍 | 約2倍 | 約1.8倍(一時) |
| 相手国 | 産油国連合 | イラク | イラン |
| ホルムズ海峡への影響 | なし | なし | 封鎖・再封鎖の繰り返し |
| 同時並行リスク | 単独危機 | 単独危機 | 関税戦争+中国減速との複合 |
| 終結の見通し | 長期化 | 比較的明確 | 不透明 |
「回復する」と「長引く」——分かれ目はどこか
今後について、2つのシナリオが考えられる。
【楽観シナリオ:湾岸戦争型】停戦が本格的に成立し、ホルムズ海峡が安定して開放される。原油価格は半年〜1年で正常化し、日本の景気感も回復に向かう。
【悲観シナリオ:第1次オイルショック型】停戦と再緊張を繰り返しながら長期化する。トランプ関税・中国経済の減速が重なり、日本の家計への物価上昇圧力が数年単位で続く。
現状は、残念ながら楽観シナリオよりも悲観シナリオに近い構造を持っている。単独の危機ではなく、複数の要因が絡み合っているからだ。ただ1973年の日本が危機を乗り越えた後に省エネ先進国になったように、「危機が構造を変える」という側面もある。
今、私たちに問われていること
1973年のオイルショックの時、日本人はトイレットペーパーや砂糖を買い占めた。「石油がなくなる」という不安が、根拠のない行動を引き起こした。
今の私たちが置かれた状況は、ある意味でそれより複雑だ。SNSには「ホルムズ海峡が完全封鎖」「原油が枯渇する」という情報と、「大した影響はない」という情報が同時に流れてくる。正しい情報と誤情報が入り混じる現代では、情報を正しく読み解く力こそが問われている。
パニックで買い占めるのでも、「関係ない」と目を背けるのでもなく——仕組みを知った上で、冷静に備える。それが、2度の危機から学んだ日本人にできることではないだろうか。
景気ウォッチャーの数字が40台に落ちた背景に何があるのか。ホルムズ海峡がどこにあるのか。イランとイラクが何が違うのか。知っているだけで、ニュースの見え方は変わる。過去の日本は2度の危機を乗り越えた。今回も、どういう経路を通るかはまだわからない。ただ、知っていれば備えられる。それだけは、歴史が教えてくれることだ。
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