10月にスーパーやコンビニのお酒売り場が、静かに変わる。
発泡酒が値上がりする。第三のビールが値上がりする。チューハイも値上がりする。
でも、ビールだけは安くなる。
「え、逆じゃないの?」と思った人は多いはずだ。安いお酒が上がって、高いビールが下がる——この不思議な逆転現象には、30年越しの「国とメーカーのせめぎ合い」という背景がある。
① 第三のビールはなぜ生まれたか
話は1990年代にさかのぼる。
当時、ビール1缶(350ml)の税金は約77円。缶の中身より税金の方が高いレベルだ。バブル崩壊後の節約志向の中で、消費者はどんどんビールを避け始めた。
そこでメーカーが考えた。「ビールじゃないものを作れば、税金が安くなる」と。
まず1994年ごろに登場したのが「発泡酒」。麦芽の量を減らすことで税率を下げた。1缶あたりの税金は約47円——ビールより30円安い。
さらに2004年ごろ、麦芽をほぼゼロにした「第三のビール」が登場。大豆やえんどう豆などを原料にすることで税率はさらに下がり、1缶あたり約28円になった。
消費者は「ビールみたいで安い」と飛びついた。第三のビールは瞬く間に売り場の主役になった。
② 国の税収が30年でほぼ半分になった
メーカーが節税商品を作り、消費者がそちらに流れるたびに、国が受け取る酒税は減り続けた。
1988年のピーク時には約2.2兆円あった酒税収入が、2020年代にはほぼ半分の約1.1兆円にまで落ち込んだ。
「同じようにビール風のお酒なのに、税率がバラバラなのはおかしい」——財務省がそう判断し、2017年に酒税法の改正を決定。2020年・2023年・2026年の3段階で、すべてのビール類の税率を54.25円に統一することになった。
2026年10月が、その最終段階だ。
③ 10月から何がいくら変わるのか
350ml缶1本あたりの税額の変化はこうなる。
| 種類 | 現在の税額 | 10月以降 | 変化 |
|---|---|---|---|
| ビール | 約63円 | 約54円 | 🔽 約9円 安くなる |
| 発泡酒 | 約47円 | 約54円 | 🔺 約7円 高くなる |
| 第三のビール | 約46円 | 約54円 | 🔺 約8円 高くなる |
| 缶チューハイ | 約28円 | 約35円 | 🔺 約7円 高くなる |
ビール以外は軒並み値上がりだ。毎日缶チューハイを1本飲む人は、年間で約2,500円の負担増になる計算だ。
④ 「金麦」「本麒麟」がビールになる日
税率が統一されるなら、「第三のビールのまま高くなるより、本物のビールに格上げしよう」——メーカーはそう判断した。
サントリーは「金麦」を、キリンは「本麒麟」を、アサヒは「クリアアサヒ」を、それぞれ2026年10月にビールとしてリニューアルすると発表している。
麦芽の比率を引き上げ、「ビールの定義」を満たすように製法を変える。価格帯はほぼ据え置きで、「より本物に近い味」になるという。
長年親しんできた「第三のビール」というカテゴリーそのものが、10月以降は消えていくことになる。
⑤ 「安さで選んでいた人」が一番割を食う
今回の改正で得をするのは、高くてなかなか手が伸びなかったビール派だ。約9円の値下がりは小さいようで、毎日飲めば年間3,000円以上の節約になる。
一方、損をするのは「少しでも安く抑えたい」と発泡酒や第三のビール、チューハイを選んできた人たちだ。
消費者調査では、第三のビールがビールにリニューアルされた場合、約2割の人が「購入を控える」と回答している。
節約のために選んでいたお酒が値上がりして、贅沢だと思っていたビールが安くなる。「庶民の味方」が終わる日が、じわじわと近づいている。
⑥ 売り場はこう変わる——何を選べばいいか
10月以降、スーパーの棚はこう変わっていく。
- 「第三のビール」の棚が縮小し、「ビール」の棚が広がる
- 金麦・本麒麟などの人気商品がビールとして並ぶ
- 発泡酒とビールの価格差が縮まり、ビールを選ぶ理由が増える
- チューハイも値上がりするが、種類は増える方向
賢い選び方としては、10月以降はビールとの価格差をあらためて比較してみることだ。今まで「ビールは高い」と避けていた人も、差が縮まった後では選択肢が変わるかもしれない。
まとめ
第三のビールは、国の高い酒税から逃げるために生まれた商品だった。メーカーが抜け穴を見つけ、消費者がそこに流れ、国の税収が半減した——その30年越しの決着が2026年10月だ。
値上がりするのは発泡酒・第三のビール・チューハイ。値下がりするのはビールだけ。
10月にスーパーに行ったとき、棚の並びがいつもと違って見えるかもしれない。そのときにこの話を思い出してもらえたら、少しだけ「なるほど」と思えるはずだ。
