「所有者不明の土地が、九州より広い」——そう言われても、ピンとこないかもしれない。
日本のどこかに、誰のものかわからない土地が広がっている。登記簿を見ても持ち主がはっきりしない。連絡を取ろうにも、どこに住んでいるかもわからない。そんな土地が全国に積み重なって、約410万ヘクタール。九州本島(約367万ヘクタール)を上回る面積になっている。
しかも、このまま放置すれば2040年代には北海道の面積に迫るとも言われている。
「でも、それって遠い山奥の話でしょ?」
そう思う気持ちはわかる。でも、そうとも言い切れないのが、この問題のやっかいなところだ。
「山林がほとんどでは?」という直感が外れるところ
所有者不明土地の内訳を地目別に見ると、確かに林地・山地が面積ベースでは最も多い。広大な山林が数十年にわたって放置されているケースが多いためだ。
ところが件数ベースで見ると、2番目に多いのは「宅地」だ。農地よりも多い。
農業従事者の高齢化が問題になっているのだから、農地がもっと多くなりそうなものだが、なぜ宅地なのか。
その答えが「引越し後の登記住所変更忘れ」にある。
住民票を変えても、登記は変わらない
引越しをしたとき、多くの人は「住民票の移動」を行う。役所で手続きをして、新しい住所に住民票が移る。
ところが「不動産登記」は別の話だ。
住民票と不動産登記は、まったく別のシステムで管理されている。住民票を変えても、登記簿に載っている住所は自動的に変わらない。登記簿の住所を変えたければ、法務局に「住所変更登記」を自分で申請しなければならない。
これを知らない人が、実は多い。
引越しの際に「住民票は変えた。電気・ガス・銀行も変えた。でも不動産登記?それって何?」となってしまう。知らないうちに、登記簿の住所だけが古いまま残り続ける。
こうして「住んでいる場所と登記簿の住所が違う人」が全国に積み重なってきた。
相続のとき「本人しか知らない土地」が問題になる
もう一つの大きな原因が、相続だ。
親が亡くなったとき、遺族が相続手続きを進める。でもここで「知らなかった土地」が出てきたり、「どこかに土地があるらしい」という口伝えだけで記録がなかったりすることがある。
さらに厄介なのが、相続人が多いケースだ。
「亡くなった祖父の土地を相続するには、兄弟6人全員のハンコが必要」——かつてはこれが原則だった。連絡がとれない兄弟がいたり、行方不明だったり、遠方に住んでいてなかなか動けなかったりすると、手続きが止まったまま何年も経過してしまう。
誰も悪くない。でも、どうにもならない。
そういうケースが全国に積み重なって、「誰のものかわからない土地」になっていった。
固定資産税の「怖い話」
所有者不明土地には、もう一つ見落とされがちなリスクがある。
固定資産税だ。
固定資産税の通知は、基本的に「登記簿上の住所」に送られる。引越し後に登記住所を変えていなければ、旧住所に通知が届き続ける。転送設定が切れていれば、通知は行方不明になる。
本人が「払いたい」と思っていても、通知が届かないままでは手続きができない。気づかないうちに未納が積み上がってしまうことがある。
相続のケースはさらに深刻だ。亡くなった人の登記住所に通知が届き続け、誰も受け取らないまま数年が過ぎると——延滞税(年14.6%)が積み重なる。相続人が後になって発覚したとき、突然まとまった未納税を請求されることになる。
「知らなかった」では済まない状況が、実際に起きている。
少しずつ、解決へ向かい始めている
ただ、何もしていたわけではない。近年、この問題に向き合う制度が少しずつ整ってきた。
① 相続登記の義務化(2024年4月〜)
土地を相続したら、3年以内に登記することが義務付けられた。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科される可能性がある。「相続したまま放置」という選択肢に、初めてペナルティが設けられた。
② 住所変更登記の義務化(2026年4月〜)
引越しや氏名変更があった場合、2年以内に登記を更新することが義務に。2026年4月1日以前の変更も対象で、2028年3月末までに更新する必要がある。違反すると5万円以下の過料だ。
③ スマート変更登記(2026年4月〜)
住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)と不動産登記を連携させ、引越し後の住所変更を自動的に登記に反映させる仕組みが始まった。事前に「検索用情報」を法務局に申し出ておくと、登記官が職権で変更してくれる。手続きの手間が大幅に減る。
④ 相続土地国庫帰属制度(2023年4月〜)
「相続したけど、いらない土地がある」という人のために、一定の条件を満たせば土地を国に引き取ってもらえる制度が始まった。2026年1月末時点で申請は5,032件、うち2,432件が帰属(国への移転)に至っている。承認率は約47%で、使える土地・使えない土地の線引きが現実には厳しい面もある。
「自分には関係ない」と言い切れるか
制度は動き始めた。でも、過去に積み上がった数百万件の「積み残し」をさかのぼって解決するには、まだ時間がかかる。
今すぐできることは何か。
まず、自分が所有している(または相続した)不動産の登記簿を確認してみることだ。登記簿に載っている住所が現住所と一致しているか。相続した土地が正式に登記されているか。
そして、親や祖父母の代から引き継いだ「どこかにあるらしい土地」の話があれば、今のうちに記録を整理しておくことが、将来の家族への最大の備えになる。
「うちには関係ない」と思っていた話が、気づけば自分の足元にあるのが、この問題の本当のやっかいさだ。
まとめ
- 所有者不明土地は約410万ha——九州本土(約367万ha)を超える面積
- 原因は「相続未登記」「引越し後の住所変更忘れ」「住民票と登記の二重管理」
- 放置すると固定資産税未納・延滞税(年14.6%)のリスクが生じる
- 2024年から「相続登記義務化」、2026年から「住所変更登記義務化」がスタート
- スマート変更登記で引越し後の自動更新が可能に
- 相続土地国庫帰属制度で「いらない土地」を国に引き取ってもらえる(承認率約47%)
相続の話や、自分の周りの土地について——一度、確認してみてはいかがだろうか。
