日経平均6万円の翌日に読む月例経済報告——株価と生活感の、静かなすれ違い

昨日、日経平均株価が史上初めて6万円を突破した。記録的な一日だった。

そして今日、政府は月例経済報告を発表した。景気判断は「緩やかに回復」。この言葉が使われ続けて、20ヶ月になる。

「緩やかに回復」と「日経平均6万円」。数字だけ見れば、日本はいい方向に向かっているように見える。でも、この言葉が届いていない場所が確実に存在する。

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大企業の最高益、中小企業の「限界」

今日、中小企業白書も同時に発表された。そこに書かれた一行が気になった。

「中小企業の労働分配率は、すでに約80%に達している」

労働分配率とは、会社が生み出した付加価値のうち、どれだけを人件費に充てているかを示す数字だ。80%というのは、稼いだお金の8割をすでに人件費に使っているということ。大企業の労働分配率は概ね60〜65%程度とされており、その差は歴然だ。

大企業は利益の余裕から賃上げができる。でも中小企業は、自分たちの利益を削りながら賃上げしている状態がすでに続いている。これ以上削れる余地は、ほとんど残っていない。

賃金は上がっている。でも物価にはまだ負けている

月例経済報告は「雇用・所得環境は改善している」と述べている。確かに数字の上では、2026年春闘での賃上げ率は平均5%超と30年ぶりの高水準だ。

ところが、実質賃金の話になると少し違う。2025年は4年連続で実質賃金がマイナスだった。物価の上昇に賃上げが追いつかなかったからだ。2026年2月にようやく実質賃金がプラス(前年比+1.9%)に転じたが、これはまだ「ようやくスタートラインに立った」段階に過ぎない。

給料袋が少し厚くなっても、スーパーのレシートも同じように膨らんでいる。「賃上げを実感できない」という声が消えないのは、数字のトリックではなく、正直な現実だ。

6万円の株価と、500円の弁当を手に取る感覚

日経平均を動かしているのは、主にAI・半導体関連の大企業だ。その株を持っているのは、機関投資家と、ある程度の資産を持つ個人投資家が中心になる。

一方でスーパーの弁当コーナーでは、500円台のものを手に取るかどうか一瞬考える人がいる。外食を控え、まとめ買いのタイミングを計り、光熱費の明細を見てため息をつく——そういう生活をしている人が、日本の多数派に近いはずだ。

株価と生活感が「別々の世界の出来事」になっていく感覚。これを経済学では「資産効果の偏在」と呼ぶが、もっと単純に言えば「恩恵が届く人と届かない人が、くっきり分かれている」ということだ。

月例報告が教えてくれない「二つの日本」

「緩やかに回復」という言葉は嘘ではない。データを平均すれば、確かに回復している。

ただ、平均には「すごく良い人」と「全然良くない人」が混在する。大企業の最高益更新と中小企業の倒産増加が同時に起きている今、平均値の言葉だけでは見えてこない現実がある。

日経平均6万円という歴史的な数字が生まれた翌日に、月例報告を読んでいる。二つの日本が、静かにすれ違っている。

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この記事を書いた人

時事・経済・社会問題を「身近な視点」から読み解くライター。日常のちょっとした引っかかりを起点に、政治・経済・テクノロジーの動きを平易な言葉で伝えることをテーマにしている。よりみち世相録では、3分で読めるニュース解説を毎週更新中。

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