原油価格が乱高下し、またガソリン高への不安が強まっています。
そんな中で出てきたのが、政府による備蓄石油放出の方針です。
けれど、この話は本当に「家計を助ける値下げ策」なのでしょうか。ニュースを見ながら、少し気になったことがありました。
中東情勢の緊迫で、またガソリン価格が気になる空気になってきました。
原油価格は一時、北海ブレント原油で1バレル119ドル台まで上昇し、その後は87ドル前後まで下がっています。日本政府はこうした情勢を受け、3月16日から民間備蓄15日分と国家備蓄1か月分を放出する方針を示しました。首相は、ガソリンなど石油製品の供給に支障が出ないようにするためだと説明しています。日本は原油の約95%を中東に依存しており、政府としては「なくなってから考える」わけにはいかないのでしょう。
このニュースを見て、私は少し引っかかるものがありました。
それは、今回の備蓄放出は「ガソリン価格を安くするため」というより、まずは国内の供給を止めないための対策ではないか、ということです。政府の説明も実際に「価格抑制」より「供給の安定」に重心があります。石油は、私たちが給油するガソリンスタンドだけでなく、物流、工場、建設、漁業、農業など幅広い現場を支えています。小売価格の痛みも大きいですが、元売りや流通から見れば、もっと怖いのは「品物そのものが回らなくなること」なのかもしれません。
考えてみれば、それは企業として自然な判断です。
タンカーが本当に止まり、精製や配送が混乱してから動いても遅い。特に大口の取引先や地域の産業向け燃料は、途中で途切れさせるわけにいきません。そうなると、政府も業界も、目先の店頭価格を少しでも下げることより、まずは「必要なところへ確実に届ける」ことを優先するはずです。今回の備蓄放出には、そんな危機管理の本音がにじんでいるように見えます。これは私の見立てですが、家計向けの値下げ策というより、供給不安への予防策として読むほうがしっくりきます。
一方で、生活者としては複雑です。
資源エネルギー庁は、ガソリンの暫定税率廃止があっても、その日に一気に25.1円下がるわけではないと説明しています。急な値動きは買い控えや行列、在庫切れなど流通の混乱を招くおそれがあるため、段階的な仕組みにしてきたからです。つまり、制度上ももともと「急に安くなる」形ではありませんでした。そこに今回のような原油高と地政学リスクが重なれば、せっかく見えてきた値下げ効果が打ち消されるのでは、と不安になるのは当然です。
実際、足元の全国平均ガソリン価格は3月9日時点で161.8円/Lと、前週より3.3円上昇しました。原油相場が少し落ち着いても、為替、調達コスト、精製、流通、在庫の入れ替えがあるため、店頭価格には時間差で反映されます。原油が下がったからといって、すぐにガソリンも下がるとは限りません。むしろ直近では、これから値上がりが本格的に出てくる局面と見るほうが現実的なのかもしれません。
だから今回の備蓄放出を見ていて感じるのは、政府が守ろうとしているのは、まず「価格」ではなく「供給」なのだろう、ということです。
もちろん供給を守るのは大事です。物流も産業も止まれば、結局もっと大きな混乱になります。ただ、家計の側からすれば、「備蓄を放出するのに、なぜガソリンは安くならないのか」というモヤモヤが残ります。そこにあるのは、政策の優先順位と生活実感のズレです。
せっかく暫定税率廃止で少し楽になるはずだったのに、また原油高で元に戻ってしまうのではないか。
そんな不安を覚える人は、たぶん少なくないでしょう。
備蓄放出は必要な判断です。
でもそれは、私たちが期待するような「家計にやさしい値下げ策」とは少し違う。
今回のニュースは、その現実を静かに示しているように思います。
一次情報・参考
- ロイター(日本はIEA主導の決定に先立ち、石油備蓄の一部を放出すると首相が表明)
- 資源エネルギー庁(ガソリンの暫定税率(当分の間税率)の廃止でガソリン代はどうなるの?よくいただく質問に、資源エネルギー庁がお答えします!)
- 燃料油価格激変緩和対策事業の公表資料
ひとこと
備蓄を出すと聞くと、「これで少しは安くなるのかな」と期待してしまいます。
でも現実は、まず価格よりも供給を守ることが優先される。エネルギーの話は、結局いつも暮らしの不安とつながっているのだと感じます。
