介護離職は突然来る——50代が一番危ない、遠距離介護のリアル

電話は、たいてい突然かかってくる。

「お父さんが転んで、病院に運ばれた」「お母さんが最近ちょっとおかしくて」——そのとき多くの人は、50代の働き盛りのただ中にいる。子育てがようやく一段落し、仕事もベテランの域に入り、「これからが自分の時間」と思い始めた矢先だ。

年間10万人が、介護を理由に仕事を辞めている。そしてその中心は、50代だ。

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なぜ50代に集中するのか

介護離職の年齢別データを見ると、50〜54歳が最も多く、全体の約4分の1を占める。40代・60代にも一定数いるが、50代前半への集中ぶりは際立っている。

理由は、親の年齢との「最悪のタイミングの重なり」にある。

30歳で子どもを産んだ人が55歳になるころ、子は独立し手がかからなくなる。同じころ、親は80〜85歳に差し掛かる。骨折、脳梗塞、認知症——加齢による問題が一気に現れ始める年齢だ。

「子育て終わった。さあこれから」という解放感と、「親の介護が始まった」という現実が、ほぼ同時に訪れる。これが50代問題の本質だ。

年代割合特徴
40代約20%親が60〜70代、比較的軽度な介護が多い
50〜54歳約25%(最多)親が75〜85歳、本格的な介護が始まる
55〜59歳約20%定年が近く「もういいか」と離職しやすい
60代約25%定年後の再雇用中に離職するケース

性別で見ると、介護離職の約75%は女性が占める。ただし男性の割合も年々増えており、「介護は女性の問題」という認識はすでに過去のものになりつつある。

現代の介護は「遠距離」が多数派

もうひとつ知っておきたい現実がある。今の介護は、親と同居しながらするケースよりも、別居したまま対応するケースのほうが多いということだ。

核家族化と都市集中が進んだ結果、「地方の親・都市部の子」という構図が当たり前になった。介護している人の約6割が、親と別居した状態で介護をしている。

遠距離介護の3つのパターン

パターンA:帰省型(最も多い・最初の段階)

介護が始まった当初、多くの人は「仕事を続けながら週末に帰る」という方法を選ぶ。金曜の夜に新幹線で実家へ向かい、土日で介護・通院付き添い・役所の手続きをこなし、日曜の夜に帰宅して月曜からまた仕事に戻る。

交通費は月2〜4万円、往復の移動だけで6〜8時間。それが毎月続く。そして「緊急事態」が起きるたびに有休を使い、有休が尽きれば欠勤になる。職場の空気が変わり始め、居場所がなくなっていく。

パターンB:呼び寄せ型

介護が重くなってくると、「親を自分の近くに連れてくる」ことを考え始める。同居するか、近くに部屋を借りる「近居」か、近くの施設に入ってもらうか。

しかしここで多くの人が直面するのが、親の抵抗だ。「今さら知らない土地には行けない」「友達も、お医者さんも、お墓もここにある」「あんたの世話にはなりたくない」——説得しようとするほど関係がこじれ、話し合いが家族の危機になることも珍しくない。

パターンC:在宅サービス活用型(理想だが知らない人が多い)

介護保険を最大限に使えば、親は自宅に住み続けながら、ヘルパー・デイサービス・訪問看護などの専門職にケアを任せることができる。ケアマネージャーが全体をコーディネートしてくれるため、子が毎週帰省しなくても回るケースは実は多い。

ところが「介護保険の使い方を知らない」まま自分で抱え込み、気づいたときには限界になっているケースが後を絶たない。

遠距離介護が「離職」に変わる瞬間

最初はなんとかなっている。月1回の帰省で、親も「大丈夫だから来なくていい」と言う。

半年後、転倒して入院した。緊急で帰省した。退院後も一人では不安だと言われ、翌週もまた帰省した。そのうち「毎週帰らないと無理」な状態になっていく。

有休が尽きる。欠勤が続く。上司に呼ばれる。「迷惑をかけている」という罪悪感が積み重なる。そして——「辞めます」。

このプロセスが、驚くほど短期間で起きる。最初の電話から離職まで、1年足らずというケースも珍しくない。

離職後の経済的ダメージが深刻すぎる

損失の種類内容
収入の消失年400〜600万円の収入がなくなる
退職金の減少55歳での離職は満額支給に届かないことも
厚生年金の目減り加入期間が短くなり、将来の年金が下がる
再就職の難しさ50代女性の正規再就職率は極めて低い
老後資金への影響NISAの積み立てが途絶える

最後の項目が、特に重い。53歳から新NISAを始めれば老後の月8万円の赤字をカバーできる——しかし54歳で介護離職すれば、その積み立ては止まる。60歳時点の資産は計画を大きく下回り、「間に合う」はずだったものが「間に合わない」になる。

50代の介護離職は、老後資金の計画を根本から壊す。

「辞めなくて済む」ために知っておくこと

① まずケアマネージャーに相談する

介護が始まったと気づいたら、まず地域包括支援センターに連絡してケアマネージャーをつけてもらう。介護保険のサービスを組み合わせれば、子が毎週帰省しなくても親が生活できる環境を作れることが多い。

② 「施設=可哀想」という思い込みを捨てる

施設入居に罪悪感を持つ人は多い。しかし在宅介護で子が疲弊し関係が壊れていくケースと比べると、施設で安全に過ごしながら定期的に会いに行くほうが、親子双方にとって良い結果になることも多い。

③ 介護休業制度を使い倒す

法律上、介護を理由に最大93日の休業が取れる。分割取得も可能だ。「使えない空気」があったとしても、まず制度を知ることが第一歩になる。

④ 「近居」という選択肢を早めに提案する

同居には親が抵抗しても、「近くに引っ越してもらう」なら受け入れやすいケースがある。介護が重くなってからでは動けなくなるので、まだ余裕があるうちに家族で話し合っておくことが大切だ。

備えは「介護が始まる前」にしかできない

介護はある日突然始まる。そのときに初めて「どうすればいいか」を考えるのでは遅い。

介護保険の仕組みを知っておくこと。親がどこで、どんな老後を過ごしたいかを、元気なうちに話しておくこと。自分の会社の介護休業制度を確認しておくこと。

老後の備えは「お金だけの問題ではない」ということを、10万人の離職者が毎年教えてくれている。

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