2040年、日本人の3人に1人が高齢者になる——誰が、どうやって支えるのか

「2040年」と聞くと、まだ先の話のように感じるかもしれない。でも、14年後だ。今の40代が50代になる頃。子どもがいれば、その子が成人する頃。

その年、日本は人口の約35%が65歳以上になる。3人に1人以上が高齢者という社会が、確実にやってくる。

第1回では医療・介護の「お金の問題」を、第2回では「現場の疲弊と事件の構造」を見てきた。今回は最後に、「では誰がどうやって支えるのか」という問いに向き合ってみたい。

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2040年に必要な介護職員は「今より57万人多い」

厚生労働省の推計によると、2040年度に必要な介護職員は約272万人だ。現在(2022年度)の約215万人から、57万人以上増やさなければならない。

57万人というのは、どのくらいの規模感か。鹿児島県の全就業者数に近い。あるいは、福岡市の人口の約4分の1だ。それだけの人数を、介護の現場に新たに送り込まなければならない。

ところが、日本の生産年齢人口(15〜64歳)は2040年に向けて急速に減っていく。働き手のパイが縮む中で、介護職員だけを大幅に増やすのは、構造的に極めて難しい。

「3つの解決策」は本当に機能するのか

政府や業界が掲げる解決策は、大きく3つある。それぞれ、現実的にどこまで機能するか考えてみたい。

① 外国人材の受け入れ

特定技能や技能実習制度を通じて、介護分野への外国人材受け入れが進んでいる。フィリピン・インドネシア・ベトナムなどからの介護士が増え始めている。

ただし、課題は小さくない。言語の壁(認知症ケアでは細やかなコミュニケーションが求められる)、文化的な違い、母国での賃金上昇による「日本離れ」——アジア各国の経済成長が続く中、「日本で働きたい」という動機が薄れつつある国もある。人材の獲得競争は、すでに始まっている。

② ロボット・ICTの活用

移乗支援ロボット、見守りセンサー、介護記録のAI入力——テクノロジーで介護の「負担を減らす」取り組みが進んでいる。

効果はある。介護記録にかかる時間が大幅に削減された施設もある。夜間の見守りを機械が補うことで、職員の負荷が下がった例もある。

ただし、ロボットが「人の手」を完全に代替することはできない。入浴介助、食事の介助、認知症の方との会話——人が人に触れ、言葉をかけることの意味は、機械では埋められない部分がある。テクノロジーはあくまで「補助」であって、人手不足の「解決」にはならない。

③ 処遇改善・賃上げ

第1回・第2回でも触れたとおり、介護報酬の改定で賃上げが進もうとしている。2024年度の改定で介護職員は月最大1.9万円の賃上げが実現する見込みだ。

ただし、第1回でも書いたように、その財源は「報酬単価の引き上げ」だ。施設の経営が苦しい中では、賃上げ分をそのまま職員に渡せるかどうかも不透明だ。実際、2025年の介護事業所の倒産・廃業は過去最多を記録している。

「支える側」が消えていく

介護の問題を考えるとき、見落とされがちな視点がある。「支えられる人」が増えるのと同時に、「支える側」も減っていくということだ。

家族による在宅介護は、今でも介護の大きな部分を担っている。だが、少子化が進んだ結果、子どもがいない・一人しかいない高齢者が増え、「家族が面倒をみる」という選択肢が使えない人が増えていく。

さらに、介護をしながら働く「ダブルケアラー」「ビジネスケアラー」の問題も深刻化している。親の介護のために離職を余儀なくされ、自分の老後の備えが崩れていく——そういう連鎖が、すでに始まっている。

「誰かがなんとかしてくれる」では間に合わない

正直に言えば、「2040年問題」の完全な解決策は、まだ誰も持っていない。外国人材もロボットも賃上げも、それぞれ部分的な効果はある。でも、57万人の不足を埋める「銀の弾丸」は存在しない。

だとすれば、私たちにできることは何か。

ひとつは、介護を「他人事」にしないことだ。今は元気でも、いつか自分が「支えられる側」になる。あるいは、親の介護に直面する。その現実を、少し早めに考えておくことが、自分自身を守ることにつながる。

もうひとつは、介護職を選ぶ人を責めないこと、敬うことだ。第2回で書いたように、低賃金・重労働・密室ケアという過酷な環境で働き続けている人たちがいる。その人たちがいなければ、社会は回らない。

2040年は、遠くない。「誰が支えるのか」という問いへの答えを、社会全体で考え始める時期は、もう来ている。

まとめ

  • 2040年、日本の高齢化率は約35%——3人に1人以上が65歳以上
  • 必要な介護職員は272万人(現状から57万人増)、しかし働き手のパイは縮小する
  • 外国人材・ロボット・賃上げの3つの対策は、いずれも「部分的な効果」にとどまる
  • 家族介護の担い手も減り、「支える側」が消えていく二重の問題がある
  • 介護を「他人事」にせず、介護職を敬う社会をつくることが、巡り巡って自分を守る

(全3回・完)

この記事を書いた人

時事・経済・社会問題を「身近な視点」から読み解くライター。日常のちょっとした引っかかりを起点に、政治・経済・テクノロジーの動きを平易な言葉で伝えることをテーマにしている。よりみち世相録では、3分で読めるニュース解説を毎週更新中。

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