ホルムズ海峡で日本は何ができる? 参院予算委員会で見えた“限界”と現実

中東情勢が緊迫するたび、日本では決まって「ホルムズ海峡が止まったらどうなるのか」が話題になります。
原油価格、ガソリン代、物流コスト。暮らしに近い不安はたくさんあります。

でも、今回の参院予算委員会を見ていて、もう一つ気になったことがありました。
それは、日本は実際に何ができるのかということです。

アメリカが各国に協力を求める可能性が取り沙汰される中、日本でも自衛隊の派遣や船舶護衛の可否が論点になりました。3月17日の参院予算委員会では、令和8年度総予算案の基本的質疑が行われ、首相以下全閣僚が出席しました。ちょうどその前後には、首相がホルムズ海峡での民間船舶護衛について「法的に困難」との認識を示し、防衛相も自衛隊の派遣は何も決まっていないと説明しています。

ここで見えてきたのは、日本が「何もしない」のではなく、できることの範囲がかなり限られているという現実です。

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自衛隊はすぐに護衛に行けるわけではない

「日本の船を守るために自衛隊を出せばいい」と考えたくなります。
けれど、現実はそれほど単純ではありません。

日本国憲法9条は、戦争放棄と武力行使の制限を定めています。しかも実際の運用は、憲法だけでなく自衛隊法や安全保障法制の枠組みの中で判断されます。今回の論点も、「憲法に書いてあるから一律に無理」というより、戦闘が続く海域で、いまの法制度の下でどこまでできるのかが問われている形です。

実際、首相は3月16日の参院予算委員会で、ホルムズ海峡で民間船舶を護衛するために、自衛隊法に基づく海上警備行動で艦船を派遣するのは困難だという認識を示しました。つまり、危険な海域に「守りに行く」という発想はあっても、法的にも運用上も、そのまま実行できる話ではないということです。

この点は、今回の議論のかなり重要な部分だと思います。
日本は中東に強く依存しているのに、いざ緊張が高まった時に軍事的にできることは限られている。そこに、この国の構造的な弱さが見えます。

いま日本が現実的にやっているのは「情報収集」

では、日本は何もしていないのでしょうか。
そうではありません。

防衛省は、中東地域における日本関係船舶の安全確保に向けて、すでに情報収集活動を行っています。これは2019年末の政府決定に基づくもので、現在も継続中です。外務省の外交青書でも、中東の平和と安定は日本にとって極めて重要であり、日本関係船舶の航行安全確保が重要だと整理されています。

ただし、その活動海域はどこでもよいわけではありません。
防衛省の説明では、情報収集活動の範囲はオマーン湾、アラビア海北部、バブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾で、ホルムズ海峡やペルシャ湾では活動しないと明記されています。

ここが大事です。
日本は中東のシーレーンを重視している。
けれど、その中心にあるホルムズ海峡そのものに、今の仕組みのまま深く踏み込んでいるわけではないのです。

つまり、今の日本が現実的にできるのは、まず外交、そして航行安全対策、さらに情報収集。
いきなり「護衛艦が行って守る」という話ではないのです。防衛相も3月13日の会見で、自衛隊の派遣については何も決まっていないと述べています。

なぜそこまで慎重なのか

理由は単純で、戦争中の海域だからです。

3月18日には首相が、情報収集目的であっても停戦がしっかり確立していることが条件だと述べ、完全に停戦合意が履行された後に考えるという慎重姿勢を示しました。報道ベースではありますが、少なくとも政府は「いま動く」より「まず事態の沈静化」を優先していることがわかります。

これは弱腰というより、法と現実の境目を外さないための慎重さでしょう。
もし一歩踏み込みすぎれば、日本の安全保障のルールそのものが揺らぎます。逆に何もできなければ、エネルギーの生命線を他国任せにしている現実が露わになります。

今回の予算委員会の議論が重たく感じるのは、このためです。
単なる中東ニュースではなく、日本という国の限界がそのまま映っているからです。

結局、私たちの暮らしにどうつながるのか

この問題は、決して安全保障の専門家だけの話ではありません。

日本は原油の中東依存度が9割を超えており、資源エネルギー庁も直近の説明でその点を改めて強調しています。エネルギー白書でも、日本は原油の約9割、天然ガスの1割弱を中東から輸入しており、ホルムズ海峡を通らない調達先の確保や供給源の多角化が重要だとしています。

つまり、ホルムズ海峡の緊張はそのまま、
原油価格の不安定化、物流コストの上昇、ガソリン価格や電気代への圧力につながります。
しかも日本は、その海の安全に全面的に関われるわけではない。

ここに、暮らしの不安の根っこがあります。

私たちはつい、「備蓄を出せばよい」「補助金を入れればよい」と考えがちです。もちろんそれも大切です。実際、資源エネルギー庁は2025年12月末時点で約8か月分の石油備蓄があると説明しています。けれど、それはあくまで時間を稼ぐための備えであって、依存構造そのものを変える話ではありません。

今回の予算委員会が教えてくれたこと

今回の議論を見ていて感じたのは、日本は「できない国」なのではなく、
できることが限定された国として、何を優先するかを問われているということです。

外交で事態の沈静化を促す。
民間船舶の安全確保を図る。
情報収集を続ける。
備蓄で時間を稼ぐ。
そして本当は、もっと前から調達先の分散やエネルギー構造の見直しを進めておくべきだった――。

今回の参院予算委員会は、そんな現実を改めて見せた場だったように思います。
ホルムズ海峡の問題は、遠い海の話ではありません。
日本の安全保障、エネルギー政策、そして家計の弱さが、一本の線でつながっていることを突きつける話です。

「日本は何をするのか」だけでは足りません。
本当に問われているのは、日本はこれから何に頼って生きていくのかなのだと思います。

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