スーパーのレジを通るたびに、じわりと重さを感じるものがあります。消費税です。食料品には軽減税率が適用されているとはいえ、8%という数字は変わりません。「せめて食料品だけでもゼロにしてほしい」——そんな声は、物価高が続く中でずっと根強くあります。
参院選が近づく中、こうした議論がまた少しずつ耳に入るようになってきました。でも、本当に実現できるのでしょうか。実現したとして、本当に家計の味方になるのでしょうか。数字を追ってみると、単純ではない現実が見えてきます。
まず数字を見てみましょう——年間5兆円の財源をどうするか
食料品の消費税をゼロにするとは、現行の8%(軽減税率)から0%にする話です。この変更で消える税収は、年間で約5兆円と試算されています。
- 国の取り分(社会保障財源):約3.2兆円
- 地方の取り分(地方消費税):約1.8兆円
この穴を埋める方法は、大きく3つしかありません。
- 国債(借金):将来世代への先送り
- 他の税率引き上げ:例えば所得税・法人税の増税
- 社会保障費の削減:医療・介護・年金の給付を削る
どれを選んでも、「別の誰かが払う」形になります。食料品の減税分がそのままどこかから取られるか、借金として積み上がるかです。「5兆円はどこから来るのか」——この問いから逃げたまま語られる食料品消費税ゼロ論は、議論の半分しか見ていないと感じます。
経済学者の88%が反対する理由
日本経済研究センター(JCER)が国内の経済学者に対して行ったアンケートでは、食料品の消費税ゼロに「反対」と答えた割合は88%にのぼります。
その理由の多くは、財政悪化への懸念です。日本はすでに先進国の中で最悪水準の財政赤字を抱えています。そこに5兆円の新たな穴を開ければ、国債残高はさらに膨らみ、将来の社会保障に使えるお金が減っていきます。
経済学者が「反対」と言うのは、家庭の苦しさに鈍感だからではありません。「5兆円の財源が明示されない限り、別の形で家庭にツケが回る」という話をしているのです。
「一度下げたら戻せない」——政治の論理と不可逆性
消費税の歴史を振り返ってみましょう。3%で始まり、5%、8%、10%と段階的に上げてきました。しかしその都度、政治は大きなコストを払ってきました。「消費税を上げた政権は選挙で負ける」という言葉が定着するほど、増税は政治的なリスクを伴ってきたのです。
ならば、一度下げた税率を再び上げることはどれほど難しいか——想像するだけで答えは明らかです。「財源が足りないので、下げた食料品消費税を元に戻します」と言える政治家は、ほぼ存在しません。減税は「恩恵」として記憶されますが、増税は「裏切り」として記憶されるからです。
これを「不可逆性」と呼びます。食料品消費税をゼロにするとは、実質的に永久に5兆円の財源を手放す宣言に等しい側面があります。だからこそ、その判断の重さを問う声が多いのです。
本当に家計を助けるのか——「逆進性」という落とし穴
「消費税は低所得者ほど負担が重い(逆進性)」というのは正しい指摘です。だからこそ、食料品の消費税をゼロにすれば、低所得者が一番助かるはず——そう思いたいところですが、実はそう単純でもありません。
食料品の消費額は、高所得世帯の方が絶対額では多いのが現実です。
- 年収1,000万円の世帯が食費に年間120万円使えば、消費税ゼロで約9.6万円の恩恵
- 年収300万円の世帯が食費に年間60万円使えば、消費税ゼロで約4.8万円の恩恵
絶対額では、高所得世帯の方が「得をする」計算になります。低所得者の生活を支えるという観点では、現金給付や食料支援、教育費の補助など、より直接的な手段の方が効果的だという指摘もあります。
もちろん、毎月の出費が少しでも減るという実感は、低所得世帯にとって決して小さくありません。数字の議論と、生活の実感はかならずしも一致しないものです。
選挙が近づく中で——各党の動きと、家庭の切実な声
参院選が視野に入ってきた中、一部の政党から食料品の消費税引き下げや免除を求める声が出始めています。各党の選挙公約はまだ正式に出揃っていませんが、物価高が続く家庭の声に応えようとする動きは感じられます。この議論が参院選でも一つの争点として浮上する可能性はあるでしょう。
家庭からすれば「今すぐ助けてほしい」という気持ちは切実です。毎月の食費が膨らみ、光熱費も下がらない中で、「財源論」を語られても実感がわかないのは当然のことだと思います。
ただ、政治が「できる」と約束したものを実現しなかった時のコストも、最終的には家庭が払うことになります。「約束を守れなかった分の借金」「社会保障の削減」「別の形での増税」——そのツケはどこかで必ずやってきます。
まとめ:正論より現実、でも問い続けることには意味があります
「正論」を言えば、財源の裏付けのない食料品消費税ゼロは持続しません。経済学者の大多数が反対するのも、家庭を軽く見ているからではなく、より根本的な問題を見ているからです。
でも「現実」として、家庭の食費は上がり続けています。物価高が家計を圧迫しているのは数字が示す通りです。「待ったなし」という感覚は、決して嘘ではありません。
政治が「できない理由」を並べるだけでは信頼を失います。では本当に何ができるのか——有権者としてその問いを持ち続けることは、決して無意味ではないと思います。
選挙は、その問いを届ける数少ない機会の一つです。
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