トランプ関税、また裁判所に止められた——でも「次の波」はもう動いている

5月7日、アメリカの裁判所がまたトランプ政権に「待った」をかけた。

「トランプ関税、違法」というニュースはこれで2回目だ。1回目(2月)は最高裁、今回(5月)は国際貿易裁判所。2度にわたって「その関税のかけ方は法律に違反している」と判断が出たことになる。

ところが、トランプ政権は止まる気配がない。

なぜ裁判所に止められても、また別の手を打ってくるのだろうか。そしてこの話は、日本の家計とどうつながっているのか。今日はその「流れ全体」を最初から整理したい。

目次

そもそも何があったのか——26兆円の徴収と最高裁の「違法」判決

話は2025年にさかのぼる。

トランプ大統領は就任後まもなく、「IEEPA(国際緊急経済権限法)」という法律を使って、各国からの輸入品に相互関税を課し始めた。IEEPAとは、大統領が「国家的な緊急事態だ」と宣言すれば、議会の承認なしに広い経済的権限を使えるという法律だ。

この関税によって、アメリカに輸入される商品を扱う約33万社が、合計1,660億ドル(約26兆円)を納税した。

しかし2026年2月20日、米最高裁が「IEEPAは大統領に関税を設定する権限まで与えていない。この関税のかけ方は違法だ」と判断した(賛成6、反対3)。

違法と判断されたということは、集めたお金を返さなければならない。政府は約26兆円の還付義務を負うことになった。

ただし「すぐ全額返す」とはならず、2026年4月20日から還付申請の受け付けが始まった。実際に戻ってくるまでには2〜3ヶ月かかるとされている。

代わりの手——通商法122条(2月24日〜5月7日)

最高裁の判決からわずか4日後の2月24日、トランプ政権は別の法律を持ち出してきた。

「通商法122条」——これは国際収支(貿易の収支バランス)が著しく悪化しているときに、大統領が緊急的に関税をかけられる規定だ。金額はほぼ同じ10%。実質的に、最高裁に止められた関税を「別の名目」で復活させようとしたのだ。

そしてこの「122条関税」に対し、5月7日に米国際貿易裁判所が「これも違法」という判断を下した。

理由はこうだ。「122条は最長150日という時限的な措置として定められている。それを永続的な貿易政策の代替手段として使うことはできない」というものだ。

裁判所に「手段A」を止められたら「手段B」を出す。それがまた止められた——2度目の「違法」はそういう話だ。

なぜ止まらないのか——2026年11月の中間選挙

裁判所に止められても、トランプ政権は「やめます」とは言わない。なぜか。

答えは2026年11月に迫っている中間選挙にある。

中間選挙は大統領の任期の中間に行われる議会選挙で、与党(現在は共和党)が議会の多数派を維持できるかどうかが問われる。トランプ政権にとって、ここで議席を失うと残りの任期の政権運営が一気に難しくなる。

そこで「関税は正しい政策だった」という実績をアピールする必要がある。「アメリカの製造業を守った」「貿易赤字を減らした」——支持層へのメッセージとして関税政策の継続は欠かせない。

ただし、現実の数字は厳しい。トランプ大統領の支持率は42.2%(2月時点)。関税政策への支持率は38%にとどまり、ピュー・リサーチセンターの調査では国民の63%が「トランプ政権の関税対応をほとんど信頼していない」と回答している。

民主党はこの数字を見逃さない。「トランプ関税が物価を上げている」というメッセージを選挙キャンペーンの中心に据えている。主要な激戦州では2025年3月〜11月の間に合計1,340億ドルもの関税負担が発生しており、物価高への怒りが票に直結しやすい状況だ。

Goldman Sachsは「中間選挙への悪影響を意識し、医薬品や半導体への新たな大型関税は2026年中の発動は抑えられる可能性が高い」と分析している。つまり、選挙を意識して「やり過ぎないギリギリ」を狙っている状況とも言える。

次の波——「301条関税」が夏以降に控えている

122条が違法とされたことで、トランプ政権は次の手をすでに準備している。「通商法301条」だ。

301条は、外国が不公正な貿易慣行をとっていると判断された場合に関税をかけられる規定で、過去にも中国製品への関税でよく使われてきた実績がある。法的根拠が122条よりずっと強固で、大統領の裁量も広い。

政権は「7月下旬をめどに301条ベースの関税に切り替える」方針を示している。今回の122条に対する判決が確定するまでには時間がかかる見込みで、それまでの間は現行の10%関税を維持しようとするだろう。

日本にとってとくに気になるのは、自動車・半導体・農産品だ。これらは301条の対象になりやすい分野で、夏以降に「日本向け追加関税」が発動されるリスクが残っている。

日本の家計への影響——「向こうの話」ではない

「アメリカの裁判所の話でしょ?」と思うかもしれない。でも影響はすでに日本の家計に届いている。

試算では、今回の関税水準が続いた場合、日本の1世帯あたりで年間約8.9万円の負担増になるとされている。

ルートはこうだ。まずアメリカへの輸出が減る → 日本企業の業績が悪化する → 国内の雇用や給与に影響が出る。それと同時に、輸入品の価格が上がる → 国内の物価全体が上昇する。

すでに食料品や日用品の値上げが続いていると感じている人は多いはずだ。そこに関税による圧力が加わる形になっている。

「裁判所が止めた」というニュースは確かに一時的な安心感をもたらす。でも次の手(301条)が控えている限り、関税リスクが消えたわけではない。

まとめ——「また止められた」の意味

今回の「122条関税、違法」という判決を整理すると、こういうことだ。

  • 2025年〜:IEEPAで26兆円を徴収 → 2/20に最高裁が「違法」
  • 2/24:代替で122条関税を発動 → 5/7に「これも違法」
  • 次の手:301条関税を夏以降に準備中
  • 背景:2026年11月の中間選挙に向けた「貿易強硬姿勢」の維持

裁判所が止めるたびに別の手が出てくる。それが今のアメリカの貿易政策の実態だ。「また違法判決が出た」は「また終わった」ではなく、「またゲームが続く」という話だと思っておいた方がいい。

日本の家計という視点では、夏以降の301条関税の動向、そして円相場と輸入物価の関係を引き続き注視したい。「他国の貿易摩擦の話」として流せる段階は、もうとっくに過ぎている。

一次情報・参考

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この記事を書いた人

時事・経済・社会問題を「身近な視点」から読み解くライター。日常のちょっとした引っかかりを起点に、政治・経済・テクノロジーの動きを平易な言葉で伝えることをテーマにしている。よりみち世相録では、3分で読めるニュース解説を毎週更新中。

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